私をギャルと形容した男
「ギャルみたいだね」
マッチングアプリで出会った、ジージャンを羽織ろうとした私に向かってそう言い放ったあの男のことは、きっと忘れることができないだろうと思う。
ワンナイトラヴ…
24歳だという彼はマッチングアプリのチャットで性行為しないかと持ちかけてきた。私は合意して、性行為の経験はあるけれど挿入経験がないとの旨を伝えた。
すると彼からエロいねなんて返信が来た。
後日、ふりしきる雨のなか、ビニール傘をさしながら私は千葉の某所でおそらく仕事帰りなのだろう、スーツを着た彼と会った。
陰気な私とは正反対の、チャラそうな整った男だった。
初めまして、とありきたりな挨拶を交わしたあと、私を駅前のラブホテルの前に連れてきて、こういった所は初めて?と聞いてきた。なんて返答したかは覚えていないが、適当に誤魔化しておいたことだけは記憶している。
ホテルの中に入る。前払いだった。私は支払いと部屋決めをする彼の横で財布を手にし、後から入ってきたカップルらしき男女を横目に、ボーッと突っ立っていた。
部屋に入室すると、割と広い空間があった。私は羽織っていたジージャンを、彼はスーツの上着をハンガーにかけて、紅色したソファに座った。
「何で会おうと思ったの?」
彼は私の肩を抱き寄せて言った。私は俯いた。
「…………」
無言になった。
「寂しくて……」
勇気を出して口にしてみると、彼はおいで、と彼自身の膝の上に手招きした。恐る恐る膝の上に座る。
重くないだろうか、と不安がよぎる。
数分の時が流れて、私達は衣服を脱いでシャワーを浴び、白いベッドにあがった。私が仰向けになり彼が上になる。彼はキスもせず、胸も揉まず、秘部を肉厚な手で触り始めた。
彼の日焼けした顔がオレンジの照明に照らされるなか、私は声を漏らす。
「じゃあ、挿れるね。ゴムは付けるから」
その言葉のあと、彼のそれが秘部に当たって今にも挿入されそうなのが分かった。グン、とした痛みが駆け巡って、あっ、痛い、と思わず声をあげる。
「痛かった?」
あっ、大丈夫……とまた声をあげるが、どうにも入り口が小さいのかはたまた相手のそれが大きいのか、それともそのどちらもなのかは分からないが、入らないらしい。
「入らないかぁ」
彼はちょっと困ったような、それでも優しげな顔をして、じゃあ後ろ向いてと言うのでバックの体勢になる。
彼がそれを挿入しようと秘部に押し当てた瞬間、私のすねに痛みが走った。
「痛っ、足つった!」
正直に言うと、彼はまたもや入らないかぁと困ったような優しげな顔をして、仰向けになった。
「気持ち良くして……」
彼のそれを舐めたり胸の突起物を舐めたりすると、彼は吐息と小さな喘ぎを漏らして、とても気持ち良さそうな顔をした。
「きもちぃ……」
あまりに気持ちよさそうな表情をするものだから、私は微笑みながら可愛いなんて言葉を彼にぶつけた。
射精をし終えティッシュで精液を拭き取ると、私達はベッドの上で横になりながら他愛もない話をした。
「休日何してるの?」
暫し悩む。
「んー、読書かな」
本を読む頻度はそんなに多い訳ではないが、何もしてないなんていうわけにもいかないのでそう答えた。
「何読んだりするー?」
「えー、三島由紀夫とか」
これも適当に答えた。三島由紀夫の本は読んだことはあるものの難解で、私の頭では理解し難いものだったので何読むという質問にこの答えは不適切な気がした。
大森靖子の曲「死神」の冒頭、履歴書は全部嘘でした 美容室でも嘘を名乗りましたというフレーズが一瞬頭を横切った。
「あ、金閣寺の人!」
「そうそう」
「どんな話だったっけー?」
あらすじと結末を話す。
その他にも色々な話をした気がする。気がする、というのは正直何を話したかは記憶が曖昧だが、彼と話すのは楽しかった。彼も楽しそうに笑っていた。
ああ、そういえば彼氏いるの、いない歴年齢なんですよ、というやり取りもしたっけ。
少しの時間だったが話をしたあと、私達はシャワーを浴びた。彼の裸を見て私は抱きつきたい気持ちに駆られたが躊躇が勝った。
衣服を着た。お互いハンガーにかけてある服を着る。彼は私がジージャンを羽織るのを見て、ギャルだと言った。
私はギャルではない。ギャルになれたらどれほどいいだろうかと思う。むしろギャルとは真反対の陰気な性格だ。
なぁ、ギャルになれるもんならなりたいよ、青年。
私は何故かこの日のワンナイトラヴが記憶にこびりついている。キスすらもしてくれなかった男だけれども、彼との会話は楽しかった。短い時間での会話だったけれど、私はあの時だけ素を出せた気がするのだ。
私はあの日のような会話を追い求め、いつかギャルになれることを夢見て生きてゆくのだろうか。