蛍光灯が宇宙になったなら

底辺雑記ブログ

ホストクラブ・ヴァージン

いつの間にやら、つくばエクスプレス新御徒町に行き、それから少々の加齢臭が漂う都営大江戸線を乗り継ぎして東新宿を訪れていた。


私がホストクラブに行くことになったきっかけは、マッチングアプリである。彼はプロフィールにでかでかと「ホストをしています」と書いていた。


私はその肩書きに惹かれ、彼とメッセージを交わし、会ってみることにした。


東新宿駅で初対面したホストは、金髪をなびかせていた。色白で顔はとても素朴であったが、美しい金色がよく似合っていた。夜空とも夕焼けとも形容し難い空が彼の髪色を一層際立たせていた。


私はその時まさかホストクラブに連れてかれるとはつゆ知らず、これからどこに行くんだろうと緩やかに思考を巡らせていた。


何とも浅はかな私である。あとから思えばこれはホストの営業だったのだ。私はいつもこうだ。鈍感で、後先考えず行動して、後からあれはああだったのだ……なんて思い返しては、時々後悔する。


しかしこれに関しては詐欺られた!なんて後から文句を垂れるつもりは毛頭ない。元々ホストクラブには興味があったから。


東新宿の街のネオンに照らされる中、彼が口を開いた。沈黙が柔らかに遮られる。


「俺、○○大学なんだよね」


どこの大学かは彼のプライバシーのためにも言えないが、有名な難関私立大学に彼は所属しているらしい。へぇ、と驚いたふうにしてみせると、怪しむような顔でもしていたのか、彼は学生証を見せようか?と言った。私はううんと首を振った。


彼のチャラそうな見た目の内に秘めているのであろう賢さに、ギャップ萌えというやつを感じた。


そして、いよいよ目的地であるホストクラブに入店した。煌びやかで高級そうなお店の入口に私は戸惑った。エスカレーターで上にあがると、ほんのり暗い照明に照らされたイケてる雰囲気のボーイ達がお出迎え。


この時、困惑しつつもこの場所がホストクラブであることを何となくではあるが理解した。


私はガチガチに緊張していた。


同時に、ダサい服装で訪れてしまったことを後悔した。何せ青のチェックシャツにショートパンツ、レギンスというオタクみたいな格好であったからだ。ホストクラブに訪れることが分かっていれば、お気に入りの花柄のワンピースを着ていったのに。


私の服装は煌びやかなホストクラブの内装とは不似合いで、周りを見渡しても、お客の女性は綺麗めな格好をしていた。センスのない自分を恥じる。


席につき、ドリンクを頼むとホストがかわるがわる交代して私と話をしてくれる。


目の細い、チャラそうだけども誠実そうなホスト、理系の大学生をしている真面目そうなホスト、成熟した大人な感じのホスト。


話の内容はといえば、好きな漫画だとか、家族構成だとか、そういった他愛のないものだった。


ホストといえば怖いイメージがあったが、そんなことはない。


彼らだって普通の人間なのだ。当たり前だけれど。


途中、私を誘った彼が隣に座る。身体が密着して、私は少しだけ胸を高揚させていた。男だというのに何故か小ささを感じた。彼から良い匂いがふわっと香り、私の鼻腔をくすぐらせた。


「延長する?」


ホストは私にそう聞いたが、お金がそんなにある訳でもなかったのでいいえと首を横に振った。


高級そうな大理石の床を踏み、店を出た。私をホストクラブへと連れていった高学歴金髪ホストは私を駅の近くまで送ってくれた。優しいですね、と言うとこんなの男として当たり前だよ、と彼は答えた。


そういうものか、と思った。


男は大変だな、とも思った。


これが男に産まれてしまった残酷さなのかもしれない。人はきっとジェンダーからは、男と女という括りからは囚われたまま逃げられないのだ。


寂しい女ほどホストクラブにハマると人々は言う。


私自身孤独な寂しい女そのものではあるが、私は単純にホストからのサービスを受けるほどの財力がなく、お金に関しては少々は自制心があるため、ホストクラブにはハマらないと自負している。


数ヶ月前にYahoo知恵袋でホストクラブに関する質問をした際にも何名かからハマらないようにとの忠告を受けたが、実際ハマっていない。


私はこれからもホストクラブにハマることはないだろう。


絶対とは言い切ることができないのが、未来というものなのだけれど。